大判例

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東京高等裁判所 昭和33年(ネ)1416号 判決

一、被控訴人が控訴人に対し、昭和三二年四月中東京都世田谷区北沢二丁目三五番地に存るブロツク三階建建物建坪一四四坪の階下の一部を賃貸し、控訴人から権利金として金二十万円の支払を受けたことは、当事者間に争がない。

二、控訴人は、右賃貸借契約における賃借部分は、右建物の階下店舗の部分であり、控訴人は此処において喫茶店を経営する目的をもつて、しかもその坪数が四坪五合あるとの被控訴人の説明を信頼して賃貸借契約を締結したのに、その後実測の結果三坪七合五勺しかないことが判明し、これでは右賃借の目的を達成し得ないことになるから、本件賃貸借契約は要素の錯誤により無効であると主張するので、以下この点について検討する。

(一) 控訴人の右主張に対し、被控訴人は、控訴人に賃貸したのは右店舗だけではなく、その奥に接続する便所と通路をも含めた実測四坪二合五勺強の部分であると主張し、原審並びに当審における被控訴人本人はその主張に添う供述をしているが、右供述は控訴人本人の原審並びに当審における供述と対比して、たやすく信用することができないし、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。むしろ右控訴人本人の供述により、本件賃貸借契約の対象となつたものは、控訴人主張の如く、前記建物階下店舗の部分だけであると認めるのを相当とする。

(二) 而して被控訴人が賃貸借契約に際し控訴人に対し、その賃貸建物の坪数が四坪五合ある旨説明したが、その実測坪数が四坪五合に満たなかつたものであることは被控訴人のこれを認めるところであり、賃貸借の目的である前記店舗部分の実測坪数が三坪七合五勺であることは、控訴人の自ら主張するところである。

(三) 右の如く、本件店舗の坪数が約定の四坪五合に満たなかつた点において、果して控訴人が要素の錯誤により本件賃貸借契約を締結したものと言えるであろうか。

原審証人堀久孝、里見謹吾の各証言と原審並びに当審における控訴人及び被控訴人各本人尋問の結果を総合すれば、控訴人は、新聞広告によつて本件店舗が貸店舗であることを知り、昭和三二年四月被控訴人を訪ね、本件店舗を検分し、実地におけるその広さに着眼して、これを喫茶店または果物店に使用しようと考え、被控訴人と右店舗の賃貸借契約を締結したものであるが、その際被控訴人はかねて右店舗の工事監督人からその坪数が四坪半あることを聞かされていたので、その坪数があるものとして控訴人にも説明し、また賃貸借契約証書にも記載したものであること、ところが右賃貸借契約の後である昭和三二年五月三日頃控訴人がその友人である訴外堀久孝とともに本件店舗に赴いた際、右訴外人から本件店舗の坪数が四坪五合に満たないのではないかと言われ、測量してみて始めて四坪五合に不足していることを知つたものであることが認められ、前記各証人及び本人の供述中この認定に反する部分はこれを採用することができない。

以上認定の事実によれば、本件賃貸借契約において、一応店舗の坪数が四坪五合と定められてはいるが、契約の対象となつたものは、控訴人が実地について検分した本件店舗であつて、その坪数は重大な意味を持たなかつたものというべく、もしその坪数が四坪五合でなければ控訴人においてこれを賃借する意思のなかつたものと認めるべき証拠は存しない。従つて他に各別の事実のない限り、本件店舗の坪数が四坪五合あることは、本件契約の要素ではなかつたものと認めるのを相当とする。

三、されば、本件賃貸借契約が要素の錯誤により無効であることを理由として、被控訴人に対しその受領した権利金二十万円の返還を求める控訴人の本訴請求は失当である。

(角村 菊池 土肥原)

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